「あの…」
靴を履き、庭に出る。
困惑している和乃の腕を引いて抱き寄せると、和乃は戸惑いの目でわてを見上げた。
ぐるっと二人を囲むように地面に円を描き、術符を取り出して円の中央に貼り付ける。
「貴一…ッ」
符に封じた術が発動。
先ほど描いた円に合わせて風が吹く。
和乃はぎゅっとわての服を掴んだ。
足元がふわりと浮き上がる。

「…う、わあああっっ!!」

上空に向けて勢いよく吹き飛ばされる。
和乃を抱えたまま空中で体勢を整え、離れの屋根の上に静かに着地。
和乃は着物の裾が捲れ上がり、わてにしがみついたまま目を白黒させている。
こういう経験は初めてだったか?
「…な、なんですか?!屋根は上るところではありませんよ!」
屋根の上に和乃を下ろすと、和乃はその場にしゃがみ込んで言う。
「和乃」
「はい!?」
「枠っつーもんは、塞がれとんのは四方だけや
ド真ん中にはでかい穴が開いとる。
枠がでかかろうが分厚かろうが必ず開いとる。
人が立っとる場所から地面の下に行けんように、写真の中に入ることはできんでも
そこから外に飛び出すんはすごい簡単なことや
このウチの塀なんか、自由に開く門が3つもあるんやしな!
アンタに足らんのは体力と勇気だけ!
閉じこもっとんのがイヤならさっさと体治して自分の足で出てき!」
目線よりずっと低い高さの塀の外を指差して言い、和乃を見る。
ぽかんと口を開けたままわてを見上げている和乃。
………しまった。
ついいつもの訛りと早口で話してしまった。
伝わっていない…
勢いで言ってしまったが、和乃の様子を見て急に恥ずかしくなる。
全身が熱い。
「…ごめんなさい、聞き取れませんでした。
最初からゆっくりお願いします」
「いやや」
もう一度同じことをゆっくり聞かせるほどの神経の図太さはわてにはない。
即座に断ると、和乃はとても残念そうな顔をする。
「…けど そうですね。
早く体を治して、いつか自分でここを出ます」
「聞いとんやないか!」
「え?」
「…なんでもない」
また伝わらなかった。
「こんなに広い景色は初めて見ました。
ありがとう、貴一さん」
「……」

「くぉら貴一!!
警報が鳴ったから何かと思えばお前の仕業か――!!」
「げっ!」
母屋から飛び出してくる蛮乃。
庭には用心棒らしき姿まで。
世界中の各施設や、上流階級の敷地などにはスヴェル、悪魔の術に反応して
発報する警報が設置されていることも少なくない。
この屋敷でもそうだったか。
「和乃も怪我をしたらどうするんだ! 降りてきなさい!」
和乃はしゃがみ込んだまま、人が集まった庭を見下ろす。
そして、くすくすと笑いながらわてを見上げた。
「あーあ」
「…『あーあ』とちゃうよ…」


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