「………」
今日はもう休もうと部屋でくつろいでいた時、部屋のドアがノックされた。
グェントが出る気配がないから俺が出たのだが…そこには大きな狐…貴一さん。
彼が来る理由が分からず、とりあえず名前を呼ぶと 貴一さんは笑顔で「よう」と言った。
貴一さんは部屋の奥にグェントがいる事を確認すると 再び俺を見る。
「傷、治したろか?」
服の中に巻かれた包帯を指差される。
「…え?」
「足手まといにはなりたないやろ?」
貴一さんは俺の頭をぽんぽんと叩き、笑った。
「けど…グェントが俺のケガが治ってもデュルァの資料は貰えないって…」
「ふふ」
今も奥でいじけてるし、そう付け足して言うと 貴一さんはまた笑う。
「『和乃』からは、や。
この地区の隊員に指令を出してんのは和乃でも、
その情報を管理してんのはこのわてや。」
「貴一、本気か?」
奥の自分のベッドに寝転んでいたグェントがいつの間にか俺の後ろにまで来ていた。
「本気も何も、わては
何百人も殺めとる悪魔を この手で捕らえたいだけや。
(それに、和乃のこのやり方には納得できひん)」





「貴一」
日が暮れ、隊長室に戻ってきた貴一さんに隊長は声をかけた。
「分かっとったか?」
隊長は部屋の唯一の窓を大きく開け、外を眺めていた。
夜の冷たい風が吹き込んできている。
スウィーパー本部の建物の中で一番高い階にある隊長室の窓からは、リゼンの街がよく見える。
山が多いが、他国よりも比較的成長しているリゼンの街は夜でも明るい。

「ええ、あなたの考えている事は全て。
普通に相談してもあなたは危険だといって反対するでしょうから
あぁ言えば、あなたから動いてくれると思っていました。」
笑顔でそう言った隊長に、貴一さんは黙る。
ずっと昔からの事だが、他人に操作されるのはいい気分ではない。
「まだ彼について話してはいないでしょう?」
「ああ。
こんな時間に出て行かれたら困るさかいな。」
それを聞いた隊長はほっと息を吐き、再び外を見た。
「それでは 明日、二人をここに呼んでください。」
そう言うと 歩み寄ってきた貴一さんが隊長の後ろから手を伸ばし、窓を閉めた。
「明日は、午前から隣国(ローリヤ)の隊長との会議が入っとんで」
隊長もそれは分かっている。
「彼女とは昔からの友人ですから、少しくらいの都合ならつけてくれますよ。
お茶の一、二杯はかけられるかもしれませんが」
ずっと笑顔を絶やさない隊長。
貴一さんはしばらくじっと隊長の顔を見つめていたが 顔を逸らすと また口を開いた。
「わてには あんたが何を考えてるんか分からんわ」
「よく言われます。」
隊長はまたははっと笑う。
だがすぐその笑顔は消えた。
「……それと貴一
もう二度と治癒術は使わないで下さいね。
あなたの治癒術は使うたびにあなたの命を削っています。
自分の命と引き換えに誰かを助けるなんて、正義のヒーローではないのですから」
その言葉に、貴一さんは苦笑いを浮かべた。
「ははっ
それを隊のやつに聞かしたらあんた、袋叩きやで」
「スウィーパーを正義と考える人の方が多いですからね。
人殺しという所では彼らと変わりないのに。
………さ、明日も早いですから そろそろ休みましょうか。」
「和乃」
「はい?」
自室である奥に行こうとした隊長を、引き止める。
「悩みがあるなら言いや?」
「分かっています。」
真剣に言ったのだが、隊長はまた笑って流してしまう。




「これがデュルァの最近の資料です。
後でゆっくりお読み下さい。」
事情を説明され、差し出された紙の束をグェントが受け取る。
1センチあるかないかくらいの厚さ。
「デュルァが最後に目撃されたんは、ここから南西に行ったところ『ダリアティア』の山中や。
…あんたらが遭遇した後やろな。
デュルァが休憩したと思われる場所に大量の血痕が見つかった。
そこじゃあ今まででスウィーパーを含めた8人の行方不明者が出とるから
確信はあれへんけど、何や関係があるんやないかと考えとる。」
「ダリアティア…」
「?」
グェントがぽつりと呟く。
「グェントが生まれた村やね」
貴一さんのその言葉にグェントが反応する。
ダリアティア…
どこなのか分からないけど、綺麗な名前の村だ。
俺が生まれた村は外部との交流がない村だったからからか、行った事も聞いた事もない。
「どんな所?気になるー。」

「……今回は 別の奴に回してください」

「えっ?」
興味津々でグェントに詰め寄ると、グェントは隊長にそう言った。
何で?
別に嫌がることはないと思うけど……
「弱虫」
「何!?」
貴一さんのその言葉に グェントは怒りを露にする。
「おお怖い、ホントの事やないの
ついでにアマネはんの墓参りも行ってきぃな。
葬式の日ィすら顔見せてへんにゃろ、きっと寂しがってんで」
「アマネ?」
グェントの恋人か何かか…?
葬式って事は、死んでるんだよな…
「アマネを殺した俺が行っていいと思うか」
「…!」
殺した…?!
「…魂を奪われ、悪魔化した人間は殺す事でしか救えません。
あなたは間違っていない。それはアマネさんも分かっているはずですよ」
グェントの質問に即答する隊長。
グェントはぐっとあごを引き、目を逸らした。
「むしろ、グェント君が苦しむと分かっていて関係を続けていたアマネさんのほうに非がある。
…失敬。
亡くなった方の悪口は言わないものですね」
さっきまでの笑顔から一変した隊長の冷たい目に背筋がぞっとした。
再び笑顔に戻る。
「嫌ならそれで構いませんよ。無理なさらないでください。」
「そんかわり、わてが先に駆除してまうかもしれへんで
こないだの事で弱っとるやろからな」
どうしても俺たちを行かせようとする貴一さん。
よっぽどの自信があるのか…ただ無謀なだけなのか
「ぐ、グェント…?
嫌だったら無理しないで……」
黙ってしまったグェントが心配になる。
「…やります。
やらせてください」
ミ・ミなら…知ってんのかな…
何でグェントがこんな反応なのかとか…俺が知らないこと
「先日の事もありますし、貴一を同行させます」
「よろしゅーに」
にっこりと笑った貴一さん。
グェントは無言のまま、貴一さんを睨むように見つめた。
「…。」

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