「!!?」
貴一さんの声の後、激しい雷鳴と光が発せられたかと思うと突然辺りが真っ白になった。
何もない。
さっきまで傍にいたグェントやミシナたちも…
だが、何故か不安にはならなかった。
さっきまでずっと胸を締め付けていたものがなくなっている。










『近づいちゃ駄目よ!』

ビクッと体が飛び跳ねる。
声がした方を向くと、辺りが一瞬にして景色に変わる。
ここは…俺が住んでいた村………ホードムだ。

「リーネ!その人に近づいちゃ駄目よ!」
若い母親はそう言うと、2,3歳の小さな子供を自分のもとに引き寄せた。
子供が近づいていたのは、12歳の俺だ。
白猫の村に、たった一匹の黒猫。
俺はそんな言葉にも反応せず じっと大樹の下に座っている。
俺が立ち上がると、その周りに居た奴らが一斉に視線を逸らした。

白い、白い……
何も言わなくても向こうから道をあける。
道をあける…というよりは、俺を避けていると言った方が合っているのだろうか。
「待…っ」
たっと駆け出した小さな俺を追いかけていく。
「待って!」
肩を掴もうとするが……
「…!」
肩をすり抜ける指。触れない。
それに、声も届いていないようだ。
「(空間がずれてるのか…?)」
道は全て覚えている。まだ、ついこの間まで住んでいた。
「ただいま、お父さん」
ある家のドアを開け、まだ声変わりのしていない声で父を呼んだ。
「おかえり、ルリス」
低く、温かい声に胸がどきっとした。
…お父さん………
大きな体に、白く長い髪 目に巻かれた包帯。
子供の俺は何かを話した後、ご機嫌で奥の部屋に入っていく。
ドアが開いたままの家に踏み込むと 俺のチョーカーの鈴が音を立てた。
「?、ルリスと同じ鈴の音だね」
「(気付いた…!?)」
お父さんが こっちを向く。
「お…とう………お父さん!」
「おやおや」
どうして触れるのか分からないが 俺は思わずお父さんに抱きついた。
温かい腕、心臓の音……
「どうした、こんな大きな子が」
耐え切れず泣き出した俺の頭を、お父さんはあやすように撫ぜてくれる。
もうずっと感じる事はできないと思っていた。
「お父さん…っ お父…っ…」
「ほら、男の子だろう?泣き止みなさい。
傷つく前に もとの世界に戻るんだ。いいね?」
お父さんはその大きな手で俺の涙を拭うと、笑顔を向けてくれる。
「愛しているよ、ルリス」
「…!」
もとの世界への帰り方なんて分からない。
それでも俺は無意識のうちに家を飛び出していたのだが…そのドアの先は………

「いたっ」
「! どうした、ルリス」
どうして…?
「大丈夫、ちょっと引っかけて足切っただけ」
茂みから出てきた俺に、お父さんは心配そうに声をかけた。
「それよりお父さん、向こうにいい木が…」
「ルリス。森の怪我を甘く見てはいけない。
毒が入っていたらどうするんだ。」
お父さんはそう言うと、手探りで竜車の荷台から薬の入った瓶を取り出した。
「傷を見せなさい」
「ちょっ、いいよ!
子供じゃないんだから自分でできる!」
どうして……?
どうして…この日は………っ…
「!」
包帯が巻き終わった時、俺の後ろに現れた男達。
「よう、キャッツ」
下品な声。
「は…ハイエナ…!?」
「はーん…俺らのこと知ってんのか」
声を上げた俺を見て、ハイエナのリーダーはくくっと笑った。
「何が目的だ。竜車の積み荷なら木しか乗せていないぞ」
お父さんは俺を庇うように後ろに下げさせる。
その言葉に、ハイエナはざわついた。
「お父さん!逃げて!!」
声を張り上げる。
しかし、声は届いていない………
「へぇ……じゃあ」
「お父さん!!」
「あんたの毛皮でも貰っておこうかな」
走ったって意味がない事も分かっている。
けど…けど……!
お父さんの口元からぼたぼたと血が零れ落ちた。
胸を貫通したハイエナの腕…
「ナツ」
「おっと」
腕が引き抜かれ、倒れたお父さんを後ろに居たハイエナが抱える。
「アニキ、こんな穴開けたら価値が下がりますよ」
「ああ…」
呆然と立ち尽くしている過去の俺。
再び見せられる忘れたい過去。
俺は竜車の傍に座り込んだ。
「だめ…」
「先帰ってろ。
俺はガキ始末してから行くわ」
「ハイ」
「止めろ!俺!!」
この頃まで、出した事すらなかった武器。
頭の中に幕がかかったように感情が遮断される。
「さて、どうやって殺…」
振り返ったハイエナの首が飛んだ。
血が噴水のように噴き出し、それに気付いたハイエナたちが目を見開いた。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!」

次々に切り裂かれていく男達。
耳を塞いでも、目を瞑っても意味がない。
聞こえてくる悲鳴 血の臭い……
目の前に広がる光景。
初めて人を殺した恐怖と絶望 狂い出す心。
殺人が楽しいと思った瞬間。
「何だ…この化け物…!

化け物!!」

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