「!」
夢からさめたような感覚。
いつの間にかもとの場所に戻ってきていた俺は勢いよく起き上がる。
肩がズキッと痛んだ。
そうだ、別の場所に居た時は痛みがなかったけどポチに撃たれていたんだ。
「べべやで、ルリス。」
そう声をかけてきた貴一さん。
周りにはグェントを含むみんなが…
あれ…さっき、気が付く前に見たもの……
何を見たのか思い出せない……………
「傷、ごめんなぁ。
今和乃に治癒術禁止されてんねん」
「いえ」
返事をすると、貴一さんは眉を寄せて自分の髪をぐしゃぐしゃと乱した。
「あ゙ーーーッもう
今回の事にゃデュルァは関係してなさそうや!」
「え?」
さっき出てきたぞ…?
「攻撃型のデュルァに幻術は使えない。
スヴェルの癖にそんな事も知らないのか?」
「ちっが…それくらい知ってる!」
グェントの馬鹿にするような発言にカッと頭に血が上る。
俺もスヴェルなんだからそれくらい分かるって!
「まぁまぁ、こんな状況で喧嘩なんかしたって損なだけさ
それより、さっきの幻術はきっとぼくとミシナが追っていた妖弧『亘理』の仕業だ。
ぼくらはそいつを追ってこの森に入ったんだが………「ポチ」
ポチが話している途中、貴一さんが立ち上がった。
「山おりんで。二人は医者に診てもろた方がええ」
貴一さんのその言葉にポチは眉を寄せる。
「…!そんなっ…ぼくはまだ…!」
「あんたは平気かもしれんけど、ミシナはそうはいかんやろ」
振り返ったポチからミシナは目を逸らす。
「戻りたいやろ? 『ミシナ』」
「…ミシナ…?」
貴一さんの問いかけに反応を示さないミシナ。
「気付いとんにゃろ?」
穏やかだが、怪しげな笑顔。口調も目つきも違う。
「…!」
次の瞬間、ポチの背中に拳銃が突きつけられる。

バァン!!

乾いた銃声が響き、ポチの左肩から銃弾と共に血が噴き出した。
ミシナは銃を握ったまま笑う。
「あ゙ああッッ!!」
「ポチ!!」
ポチは地面に膝を突くと その場に倒れこんだ。
「人間っちゅうんは弱いなぁ
一発撃たれたくらいで動けんようなるんやもん
弱者に従って生きるなんて 阿呆らしいと思わへん?

貴一。」

そんな問いかけに貴一さんは笑みを浮かべた。
「そうか?
わては人間のそういうトコにも惚れたんやけどな」
俺とグェントが唖然としている間に、貴一さんはミシナの後ろに…
札が貼り付けられたままの鎌を構え、首を傾げた。
「駆除手配No.Liz-E-5498、妖弧の亘理やな。
おとなしく観念しぃ。」
「フフッ!」
ミシナは自分の口元に手を当てて笑った。
「亘理…だと…っ?!」
倒れたポチは顔を歪める。
「うちなぁ、ずーっとあんたに会いたかってんや。
婚約までしといて、裏切るなんてひどいやないの?」
「…!」
貴一さんは表情を曇らせる。
この会話…それに妖弧の亘理って…ミシナはとり憑かれているのか!?
「(婚約…?)」
「こうして人を隠してったら いつか会ってくれる思とったんや」
「亘理!!」
「ふふっ…そないに声張り上げんでも言いたい事は分かっとる
『さっさとその体から出て、駆除されろ』やろ?
……いややで。あんたがうちンとこ帰ってくるまで絶対やめへん!」
貴一さんは左手を横にかざした。
それを見たミシナは後ろへ飛び退く。
貴一さんのその手には一枚の赤い札が持たれている。
鎌に貼られていた白い札が一斉に剥がれ、
それらは貴一さんの持つ赤い札の中に吸い込まれていった。
黒い大鎌が不気味に光る。
「この身体ごと斬る気ィか?
そないな事、いくらスウィーパーやゆうても許され…………っ」
「…!
グェント…!!」
ミシナが、突然血を吐く。
ボタボタと地面に落ちる鮮血。
予想外の事に、貴一さんは細い目を見開いた。
「許されるのよ…残念ながらね……」
ミシナは胸に手を当てる。迸る血。
すると ミシナからざあっと影のようなものが抜け出した。
影は黒い狐、亘理へと姿を変え、しゃがみ込んだミシナの傍に着地する。
グェントが構えた銃の銃口からは 細い煙がのぼる。
リゼン地区のスウィーパーは自分、または仲間が駆除対象スヴェルに操られたり、裏切って他に危害が及ぶ可能性
があり、かつ改善法がない場合 自殺や殺傷を許可されている。
「お前が…ッ!!」
亘理はギッとグェントを睨み付けた。
隙を見せたその瞬間、亘理は貴一さんに首を掴まれる。
貴一さんのもう片方の手には、一枚の白い札が握られている。
冷たい目。
「わてはあんたを裏切った覚えはあらへんで
裏切ったんはお前の方や、亘理。
わてが帰るまで、花嫁修業でもして待ってろて言うたやろ」
「貴…一…っ…」

「拘束」

その言霊に反応して札から黒い影が伸び出し
亘理を拘束していく。
「ごめんなさい!」

「ごめんなさい……っ!きい……」
貴一さんが手を離すと 亘理はまるで黒い巨大な蚕の繭のように包み込まれた。
「……」
貴一さんは自分の手に付いた影を払い、自分の肩に貼り付けていた赤い札を鎌に貼り直す。
再び赤い札から白い札があふれ出し、鎌の刃全体を覆った。
「………」



「ミシナ…」
ポチは掠れた声でミシナを呼ぶ。
痛む体を引きずり、倒れたミシナを抱え上げる。
「ポチ……ごめんなさい……」
突然の謝罪にポチは眉を寄せた。
「…はじめから 気付いていたの……
あたしの中に あいつがいた事……けど…話したくても
声が…で なかった………
ポチを撃つ…直前に 銃口を逸ら す事しか………」
「喋るな…」
「あたし…ポチのこと 大好きだったのよ…
初めて…あった日からずっと…大好きだった……」
「喋るな!………っ…グェント!
お前何で……ッッ!」
バッと振り返ったポチは、自分たちに背を向けているグェントを今にも泣き出しそうな目で睨み付けた。
ミシナはポチの背中に腕を回す。
「ポチ…グェントは悪くない…わ…
これでよかったの………」
「ミシナ!ミシナぼくは…」
「今まで ありがとう…ポチ…
あたし…ポチが傍に いてくれて…すごく 嬉し…か…っ………」
ミシナは一筋の涙を零す。
そして、ポチの背中に当てられていた手が だらりと落ちた。
「…ミシナ…?おい ミシナ?!

ミシナぁぁぁぁぁッッ!!!」



「ミシナ…ミシナ……っ…
やっと会えたのに……!」
ポチは意識のないミシナの体を強く抱きしめる。
「何でだよ…ッ…
ぼくはまだお前に何も……!!」

「グェント」
貴一さんは、真面目な眼差しでグェントを見つめる。
「誰がやっても同じなら 『副隊長』より俺の方がいいだろう?」
「わっ」
グェントにぐいっと右腕を掴まれ、引っ張られていく。
俺は3人の姿を何度も振り返りながら来た道を戻り始めた。
俺を引っ張って歩くグェントはずっと俯いたまま

「……ポチ」
貴一さんの呼びかけに、ポチはゆっくりと顔を上げる。
貴一さんはミシナの胸元に手を当てる
「…ミシナの魂はまだここにおる。まだ助かるかも知れん。
わてが術でリゼンの病院まで飛ばす。」
「…え…?」
「これは全部うちの嫁がした事や
もし医者の手で助からんかっても、わてが絶対にミシナを助けたる」
「…そんな…………」

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