「なぁ…「何も考えるな」
俺が声をかけた途端、グェントはそう話した。
空気が痺れるような低く暗い声。
「あの場で俺が撃たなければ…」
「いや、そっちじゃない…
それは俺も分かってる。グェントは間違ってない。」
俺の言葉にグェントは振り返った。
「そうじゃなくて…
(あのときのデュルァの…)
今、どこに行こうとしてるのかな…って…」
はじめに聞こうとしていた事とは違うけど…何故か聞いてはいけないような気がした。
「………。この先の家だ」
「…こんな所に?」
所々突き出した木の枝を掻き分け、進んでいく。
足場は悪いが、安定しているからかろうじて道だったということが分かるくらいだ。
「…ああ」
すっと、突然広場に出た。
まるで何かの物語の一場面かのように
平和な雰囲気の景色の中にぽつんと崩れかけの小さな家があった。
長年雨風に晒され、修理もせずに放置された家。
家の脇に並べられている植木鉢も砕けて中の土がこぼれ出している。
「何か不気味…」
「………。」
この家は周りと明らかに雰囲気が違う。
俺がぼそりと言うと、グェントは家の傾いたドアノブに手をかけた。
銃を握ったグェントを見て俺も武器を召喚する。
黙って家に入っていくグェントに俺もまた黙ってついていった。
「かび臭い…」
そう言って俺は武器をつけていない手で顔の下半分を覆う。
誰も居ないのか…それとも……
俺はドアが開いていた部屋を覗き込む。
誰も居ないようだ。
その部屋にある机の上には一つの写真立てがあった。
俺はグェントの傍から離れ、それに近づいていく。
グェントも俺が離れたのに気付いていたが、特に何も言われなかったから別に平気…だろう。多分。
写真立てを手に取り、ガラスに付いていた埃を払う。
「……!」
ドクンッと心臓が飛び出しそうになる。
「(これって…!)」
青い髪の端整な顔立ちの男に抱かれている金色のくせ毛の赤ん坊。
そしてその男の隣に立っている茶髪の女と、二人の前に立っている幼い少年。
みんな幸せそうに笑っている。
……赤ん坊の髪、目の色…まさか……
「(グェント…?)」
それにこの少年は……
俺は一度写真立てを胸にあて、背後を振り返る。
どうやらグェントは先に進んでいるようでそこには居ない。
もう一度写真に目を通し、机に伏せて置いた。
その場を離れる。
「(……きっと 似てるだけだ)」
嫌な想像を頭から拭う。
違う。そんなはずはない。
グェントは人間だ。こうして俺と契約ができているのも…

ドン!と 隣の部屋から銃声がした。
この音…グェントの銃だ…!
銃声がした部屋に飛び込んでいくと、グェントは銃を持ったままその場に立っていた。
グェントの傍の壊れかけたベッドに横たわる男。
身につけた黒いコートはボロボロで、左肩と腹部には大きな穴が開いている。
「(デュルァ…!?)」
だが、デュルァはぴくりとも動かない。
ベッドからは真っ赤な血液が滴り落ちている。
「……グェント…?」
俺はぼそりと小さな声で名前を呼んだ。
反応しない。
何か…様子がおかしい
部屋中に散らばっている画用紙の中の一枚に目がいく。
その紙の上には小さくなった色鉛筆が転がっていて、知らない国(?)の字と絵が描かれていた。
「………。」
子供の落書き程度の絵だ。けど…

…俺らとデュルァ…か…?。

「グェント…。」
「…………ルリス
外に出て、貴一に連絡を入れろ。デュルァを駆除した。」
そう言って、グェントはズボンのポケットに入れていた通信機を俺に渡す。
「…外で?」
「ああ」
受け取ってそう問いかけると、グェントはぼそっと呟くように返事を返した。
俺は首を傾げながら歩き出し、外へ向かう。
何も居ないって分かってるけど薄暗い家の中を歩くのは怖い。
「………。」
グェントは俺が部屋を出たのを確認すると、再びベッドへ視線を変えた。
「デュルァ どんな理由があろうとお前は悪魔で、犯罪者だ。
俺はお前を許さないし法もお前を許さない。
……。
同じ血が流れている俺に このようなことを言う資格は無いが」




「俺を殺して…グェント…
今頃…銀が効いてきたみたいで…苦しいんだ……」
 「……死なないんじゃなかったのか」

「あは…ウソだよ そんなの…
この世に死なないヒトなんて いないだろ…?」
 「………。」
「それに…もういいんだ
…あの子猫には敵わないって分かったから」
 「…………」
「…あは」
 「おやすみ兄さん」


「………!」
グェントは笑みを浮かべて眠るデュルァの手の中に自分のチョーカーがある事に気付いた。

「あ、もしもし貴一さ―――…」
ドン!と激しい爆音が響き、家のガラスやドアが吹き飛んだ。
溜まりに溜まった埃がもうもうと立ち込める。
『なした!』
通信機から、貴一さんの声が聞こえる。
向こうまで届いたんだろう。
「………家が……」
『家?!』
俺は無意識のうちに通信機を落とし、家の中に飛び込んでいく。
『おいルリス!返事しい!ルリス!!』
グェントとデュルァが居た部屋の破壊されたドアを抜けると、ごうっときつい風が抜けた。
目を開くと………
「グ…ェ…ント……?」
部屋の中央に立っていたヒト。
グェントには違いない…けれど……
綺麗な金色だった髪は毛先から青く染まり、碧色だった瞳も金色に輝いている。
服も、ついさっきまで着ていたものと違っていた。
「ル…りス………」
じとり、とした視線を向けられる。
グェントの頬に一筋の涙が零れた。
契約の鎖が消えていく。
「グェント…?…うそ……グェント…ッ!?」
訳が分からない!!
何これ……何………!?

「助ケて……」

視界からグェントが消えたと思うと次の瞬間、目の前に現れた。
ものすごい力で吹き飛ばされる。
あっという間に廊下を突きぬけ、屋外の地面へ叩きつけられた。
「がはッ!」
全くレベルが違う。
硬い地面に体を強く叩きつけた衝撃で胃の中のものが逆流する。
「う……」
動けないで居るとグェントが家の外へ出てきた。
グェントは俺の傍に立つと、左手を横に上げた。
武器が召喚される。
黒い、黒い、大きな剣。
「グェント……」
グェントはそれを両腕で逆さに構えると、勢いよく振り下ろした。
真っ赤な血が舞う。

頭の中に 沢山の映像がフラッシュバックした。
そうか………
この山が…ミ・ミの殺された場所………
この家の調査をした帰りにデュルァにやられたんだ……
だから、あんなに悲しかった……

「お前がこの先の村を荒らしていたスヴェルだな?」
「……スウィーパー……?
…俺を 殺すのか……?」
ガタガタと体が震える。
グェントに掴まれた腕からじわじわと「俺」が戻ってくる。
ずっとかかっていた幕が消えていく。
俺が殺してきた何の罪もない人たちの顔が頭の奥底からあふれ出してくる。
後悔
恐怖
そんな言葉だけでは表現できない感覚。
「お前の命を俺に寄越せ。
俺の武器になる気があるなら 俺がお前を拾ってやる」
「………」
冷たい眼差し。なのに 暖かい手。

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