隊長室のいつもの席に座り、貴一さんからの報告を聞きながら書類に目を通していた隊長。
隊長の左の二の腕と手には包帯が巻かれ、首から吊り下げられている。
「ダリアティアの山での8人の行方不明者はみな、今回捕獲した妖弧、亘理が原因や。
全員亘理の術空間に捕らわれてはおったけど ポチとミシナ以外の6人は軽傷。
和乃も見たやろが、グェントの剣によって死亡したデュルァは今回の事件とは無関係や。
それは現在施設の牢に拘束中の亘理本人からの証言で分かっとる。
小屋から押収した資料は悪魔の文字で書かれとるから、解読にはもうしばらく時間がかかるけど
見た感じからしておそらくデュルァの記録が中心やろな。
………ほんで…グェントは……」
「人に危害を加えるスヴェルは処刑と、国で定められています。」
「………」
急にしゅんとした貴一さんに向け、隊長は呆れたように微笑みかけた。
「あなたは今すぐにでも出してあげたいのでしょうね
グェント君も 亘理さんも」
「……ッ…!」
「けれど、良かったじゃないですか パティニャ君とミシナさんが一命を取り留めて。
電話でパティニャ君が嬉しそうに話していましたよ
退院したらあなたに直接礼を言いたいと」
隊長はまたニコッと笑う。
「…治癒術は使わないように言ったはずですけどね。
隊員の代わりは幾らでもおりますが、あなたの代わりは居ないのですよ」
「…………すまん…」
貴一さんは居心地悪そうに隊長から顔を逸らした。


「……」
崩れ落ちるようにソファに座った貴一さんは大きくため息をつくと、そのソファに横になった。
ぐしゃぐしゃと髪を乱し、唸る。
隊長が頬杖をついた時、部屋の電話が鳴った。
二度目のベルがなる前に受話器をとる。
「はい、隊長室」







『スイ』と書かれたプレートがはめられた分厚いドア。

何重にもかけられた錠を看守から奪い取った鍵で開けていく。
一度は武器でぶち壊そうとしたが、術がかけられていてそれぞれに合った鍵でしか開かないようになっていた。
拘束中のスヴェルたちの罵声を浴びながら最後の鍵を開け、重い扉を開く。
一番奥の牢の隅で座り込んでいるグェントの姿を確認した。
その手足には錠がかけられている。
「…グェント…」
名前を呼ぶとグェントはゆっくりと顔を上げた。
俺は鍵の束を握り締め、奥の牢に近づいていく。
「ルリス…?」
柵の前まで来ると、グェントは柵に飛びつくように迫ってきた。
柵にも強化の術がかけられている…SS級のスヴェルでも閉じ込めておけるようにだ。
「どうしてあの時俺を殺さなかった!
お前がのん気に眠っている間に何をされたと思ってる!
どうせ今生きていたって俺は殺されるんだぞ!」
「………」
俺の手でグェントが殺せない事はグェントも分かっているはずだ。
悲しそうな目…。
グェントの体中にはいくつもの『検査』の痕が残っている。
「………ごめん…ミ・ミに聞いたよ、全部…夢の中で
グェントに悪魔の…デュルァと同じ血が流れていて
自分の中の悪魔に支配されないようにあのチョーカーで首を絞めて自我を保っていたって…」
目の前の柵を握るグェントの手に触れた。
温かい手。
グェントはその場に崩れ落ち、頭を抱える。

「言われなくても分かってる。
……俺は悪魔だ」
「ちがうよ…グェントはグェントだ。
俺を拾ってくれた日も、デュルァにやられた日も、昨日も…ずっと
いつも俺を守って、助けてくれたじゃないか!」
「黙れ!」
突然声を張り上げたグェントに 俺の体はビクッと跳ねた。
「もうお前の顔なんて見たくない
俺に構ってないで、とっとと行っちまえ!」
「やだよ!」
そう言うと、グェントはギッと俺を睨んだ。
冷たいけれど、今にも泣き出しそうな目。
柵を強く握り締める。
「お前の意見なんて聞いていない!」
首を掴まれ、思い切り引き寄せられる。
力が篭ったグェントの指が俺の首を圧迫する。息が苦しい。
「殺されたいのか」
「やだよッ!俺はグェントを守らなきゃいけない!」
そう言うと、グェントは眉を寄せた。
「グェントに拾われた時にはもう決めてたけど
…デュルァと約束したんだ」
グェントは目を見開き、ゆっくりと口を開いた。
「…だから…なのか………」
「…?」
俺の首を掴む手の力が緩み、やっと解放される。
首を押さえ、黙ってグェントの様子を伺っていると 頬に一筋の涙が伝った。
グェントは再び頭を抱える。
「どうして…
どうしてお前たちは、自分の命を捨ててまで俺を守ろうとするんだ!」
胸が締め付けられるようなグェントの声。
前にも言われた。
自分のために他人に死なれたくない と。
「…………分かんないよ…」
俺にも分からない。
ただ グェントの背中が寂しそうで 消えてしまいそうな気がして…
肩を揺らし、鼻をすするグェントの髪に触れる。
「泣かないで…」





「やはりここに居たのですね ルリス君。」




「!」
背後からかけられた声に身構える。
牢の電気がつき、照らし出されたのは 氷室隊長の姿。その後ろには貴一さんも………
グェントを隠すように腕を広げると、隊長は微笑んだ。

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