「パティニャ君っ」
また今日も本部に現れたアイドルミシナ。
ぼくたちが本部の裏門から出てきた所、柱の裏側から出てきた。
「ごめん 今は邪魔しないで」
そう言うと、アイドルミシナはぷーっと頬を膨らませる。
だんだんグェントみたいな老若男女構わず暴言も暴力も振るえるような男が本気で羨ましくなってきた。
むしろなりたい。
これ以上ミシナとの関係を崩すような事もしたくない。
それに、これからぼくとミシナは仕事へ行かなきゃならないんだ。
この間の名誉挽回のために隊長に頭を下げてやっと貰った仕事だ。
「えーっ、どうして!
ミシナ、仕事抜け出してまで会いにきてるのに!」
「……………」
彼女の隣を素通りしようとしたぼくの腕に抱きついてくる。
「ちょっとあんた、いい加減にしなさいよ
こっちはあんたみたいに簡単にサボれるような仕事ではないの!
少し気を抜いただけで命を落とす事もあるのよ!あんたはポチに死んで欲しいの!?」
「ミシナ」
ぼくは今にも掴みかかろうとするミシナを呼んで制止し、アイドルミシナの腕を振りほどいて帽子を深く被る。
「本当に、もう止めたほうがいい
ぼくはミシナが好きで、君のことは芸能人としてしか見らんねーし
傍に居る事で君に危険が及ぶ可能性は十分にある。
そこでもし君が死にでもしたら、ぼくが責任を取らなきゃならなくなるんだよ」
ぼくは自分の力量を知っているし、ずっと昔から限界ギリギリのスリルを味わうのが好きだ。
何度もミシナや隊長、貴一さん、先輩たちから怒られているが これからもそれをやめる気はない。
けど、だからこそ、自分の力が及ばない所為で人が死ぬ事だけは嫌なんだ。
「………ごめんなさい
もう邪魔はしないよ だから
だからミシナを嫌いにならないで…!」
「仕事抜け出して来てるんだろ?早く戻れよ」
もう目が見られない。






「ポチらしくないわね」
雪に付いた誰のかも分からない足跡を踏み潰しながら歩く。
彼女を傷つけてしまった罪悪感で頭がいっぱいだ。
仕事の前でこんな事してる場合じゃないんだが、
さすがにいつものように「ポジティブシンキング!」ってわけにはいかない。
平気でヒトを殺してるスウィーパーが…と思う奴も居るだろうけど。
「だな」
「ポチは優しすぎるのよ
女はポチが思ってるほど弱くないわ 傷つけたって構わないの
一晩泣いたらころっと忘れちゃうんだから。
…グェントはちょっとやりすぎだけどね」
「だったらキスくらい許してくれても…」
「ん?」
「何でもアリマセン。」
頑張って励まそうとしてくれているのが嬉しい。
「それにしても、同じ名前なのにすごい差」
「何ですって?」
丁度通りかかったアイドルミシナ主演の映画のポスターを見て言う。
それでもぼくのミシナのほうが好きだけど。とは、恥ずかしすぎて言えなかった。
「ちょっとポチ!どういう意味なのか説明しなさいよ!」
「やだね!」
走って逃げようとするが、コートのフードを掴まれて引き止められる。

「うわっ!」
溶けた雪に足を取られて思い切り転倒。肘と尻強打。
フードを掴まれていたから頭は大丈夫だったが
「いってー…」
ズボンもコートもドロだらけだ。
…まあ、転ばなくても任務から帰ってくる頃にはこれ以上に汚れているはずだが。
「ミシナ!「……」
ぼくが見上げたミシナは じっと正面を見つめている。
その視線の先を辿ると、そこには真っ白の服を身に纏った アイドルのミシナの姿。
「あれー…」
本部から一直線に来たってのに、先回りされてる。
…一瞬ただそれだけなのかと思ったのだが 何か様子が違う。
「ボクは ずっと昔からパティニャ君を見ていたのに」
「………?…」
「子供の頃のボクはちっとも目立たなくて、不細工で パティニャ君も覚えてないだろうけど
ボクはパティニャ君に振り向いてもらうためだけにきついダイエットに耐えて 顔も変えて
有名になって絶対に損させない…自慢の恋人になれるようにって 頑張ってきたのに……」
何の事だ?
ガキの頃の知り合いに、ミシナなんて名前の女は…
「どうしてお前みたいな女に横取りされなきゃなんないんだよぉっ!!」
彼女の叫び声と同時に竜の遠吠えが聞こえる。
「きゃあああっっ!!」
「うわあッッ!!」
悲鳴と同時に逃げ惑う人々。
そこに現れたのは 以前彼女と出会った際に彼女を追っていた竜のスヴェルだった。
ぼくの銃の傷があるスヴェルも居る。間違いない。
そいつらは彼女の後方2メートルほどの位置で立ち止まる。
「…あんた、あの子に何したの……」
ぼくの後ろに立っていたミシナは頭を抱え、呟いた。
「知らないよ しかも顔変えたって言ってるし…」

「この子達はボクの言うことを何でも聞いてくれるんだ」
彼女はそう言うと、右手をすっと上げた。

「お前みたいな胸だけ女っ 殺してやる!!」

「またっ…」
「…………冗談が過ぎるぜ…」

邪魔しないんじゃなかったのかよ。











次々に向かってくる竜どもに向けて発砲する。
「くそっ!」
命中しても竜の硬い鱗のせいでろくに効いちゃいねェ。
ミシナは戦闘態勢に入る事で身体能力強化術が自動発動する。
この様子ならミシナの事は心配しなくても大丈夫だ。
むしろぼくの方が…
「弾を…!」
通常の銃弾じゃ役に立たん!
腰に付けた銃弾、特殊装備用のバッグに手を伸ばす が
「ねエェェェェ!!!」
思い切り空振り。付いてないじゃないか!
出かける前に部屋でちゃんと付けたはずなのに金具しか残ってねェ!
あんな重くてでかいモン落として何で気付かないんだ!ぼくのアホ!
「ポチ!!」
ぼくが怯んだ隙を付き、背後から飛びかかってきた竜に気付いたミシナがぼくの方へ駆けつけてきた。
ミシナは竜の頭を思い切り蹴り飛ばし、ぼくの腕に軽く触れる。
戦闘中に二人が近づいた時のミシナの癖。
「ごめんミシナ!」
「落ちてたわよ」
振り返ったぼくの前にミシナは泥まみれになったバッグを差し出す。
「サンキュ!」
ミシナからバッグを受け取り、中の特殊装甲の銃弾を銃に装弾する。
「これで最強だぜ!」

「きゃあああっっ!」

「「!!!」」
竜に銃を向けた時、響いた悲鳴。
彼女の声だ!
「どうして!敵は向こうだってば!!」
彼女の純白のドレスの左肩が真っ赤に染まっている。
「何やってるの!」
ちっ…この竜どもは頭が良くない。興奮して判断力が鈍っちまってる!
ぼくが銃を向けようとした時、ぼくの後ろに居たミシナが彼女の方へ飛び出していく。
「…!」
ぼくの隣を駆け抜けていった竜…他の奴らと違う!


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