俺がダチのジャンとシムルに連れてこられたのは我が国ローリヤの隣国、リゼン。
オルガヌ・ハイマン。ハタチにして初めての外国(言語も文化もほとんど変わらないけど)。
入国して半日。
そして、生まれて初めての人質経験が始まって15分が経った。
周りの建物が爆破され、道路は奴らの交渉、脱出のための1本を残して全て寸断。
7人のテロリストの半獣型スヴェルが、偶然そこに居合わせた俺たちと十人弱のリゼン人を拘束した。
その唯一の路も巨大な竜が立ちはだかっていて、どう考えても逃げられそうにない。
俺はろくに勉強もしてこなかったから、奴らが話す専門的な言葉は全然分かんねーし…
ただ遊びにきたってだけなのに…何でこんな目に…

「!!!」

テロリスト、人質全員が一斉に同じ方向を向く。
竜の脇を抜け、一台の黒塗りの自動車が猛スピードで突っ込んできた!
一瞬テロリストの仲間かと思ったんだが 違うのか…
やつらが一斉に停車した車に武器を向ける。
傷だらけの高級車。ボンネットにはリゼンのスウィーパーのエンブレムが刻まれている。
たった一台で救助に来たつもりか?!
死ぬのか…?ここで……!

「ははっ…何だ?チビ」
車の運転席のドアを開けて降りてきたのは白いコートの、女…?
テロリストのリーダーが笑う。


「リゼン地区スウィーパー隊隊長、氷室和乃です」
いや、この声は男か…いや、それでも…!
隊長だろうが何だろうが こんな優男一人に何ができるっていうんだ!
「隊長権限であなた達を逮捕します
逆らえば………」
そのヒムロは堂々とした強気な声でとんでもない事を言い出した!
どこかで他にもスウィーパーが潜んでるってのか?!
テロリストたちは馬鹿にしたように笑い出す。
「ははっ 一人でやれるもんならやってみな!隊長さんよォ!!」
リーダーの男がマシンガンを握る腕に力を込める。
それに連動して他のやつらも持っていた銃を上げ 一斉砲火
被弾した車が爆発、炎上し 辺りが炎と黒い煙に包まれる。
終わりだ…!
人質は悲鳴を上げ 意味が無いと分かっていても身を寄せ合う

「逆らえば、手段は選びません」

黒煙の中から無傷で飛び出してきたヒムロの手には見た事のない2本の剣…
一太刀でテロリストの一人が切り捨てられ、同時にその隣の男が持つマシンガンの銃身までもが切り落とされる
「な、に…!?」
使い物にならなくなったマシンガンを捨て、腰の拳銃に手をかけた男。
ヒムロは手首をひねって剣の柄を相手に向け 男の顔面に振り上げる!
剣は男のあごに直撃し、男が地面に倒れるよりも先にヒムロは次の相手の方へ向かう。
激しい銃撃を掻い潜り、二人並んだ男らの肩を掴んで飛び越える。
仲間の銃撃を受けて倒れる男たち…
「…!居ない…!!」
銃撃が止んだその場所にはその二人が倒れているだけだ。
「ぐあっ!」
「!!」
リーダーの隣に居た男が倒れた!
左肩と右足には小ぶりのナイフが突き刺さっている。
「何をしているガータ!!奴を殺…っ」
残りの二人が見上げた竜が炎上する車の上に倒れ、再び爆発を起こす。
竜の頭にはヒムロの剣の一本が……
もう一人の男にもナイフが降りかかる。
「くそ…!」
「きゃあっ!」
「リサ!!」
リーダーの男が俺たちのほうに駆け寄り 小さな女の子の腕を掴んだ!
母親が悲鳴を上げる。
「子供と銃を離しなさい」
男が女の子の頭に銃を突きつけようとした時、背後から男の首に黒い剣が当てられた。
銃を持つ腕を掴まれ、その銃口は地面を向いている。
これが…人間の動きか……!?
「首が飛びますよ」
「くっ……ふふ ははは…! ガータ!!」
「!!」
男が再び竜を呼ぶ。
頭がイカレたか?竜はもう………
ゆらりと起き上がった巨大な赤黒い体。
竜の金色の目がこっちを向いた!
「なに…!」
「どうせ殺されるのなら 貴様らも道連れにしてやるよ!!」
竜の口から炎が溢れ出す。
絶体絶命………

「だーから、一人で突っ込むなて言うたやろ」

「!!」
上空から男の声が響く。
次の瞬間、俺たちと竜の間に勢いよく着地した半獣型スヴェル。
銀色の狐………
その手には大きな黒い鎌が握られ、周りには長方形の紙が舞っている。
狐はその中の一枚を掴むと自分の正面に投げ、野球のスイングのように鎌を振るった
鎌の刃の先が紙に触れると同時にその紙に電気が走り、巨大な雷の束が竜を襲う!
それをまともに浴びた竜は爆音のような声を上げて倒れた
竜が絶命するのを見届けた狐は片足でくるりと回ってこっちを振り返ると 笑みを浮かべる。
大股で歩み寄り、再び一枚の紙を掴んでテロリストの額にそれを貼り付けた。
また雷か…!?
「子供と銃を離しな」
狐がそう言うと、男は少女の腕を離し 銃を地面に落とす。
解放された少女は泣きじゃくりながら母親の元に駆け寄ってきた。
「地面にうつ伏せに寝とき」
その命令にも文句ひとつ言わずに従う。
どうなってるんだ…?
「…………」
ヒムロは黙ったまま剣を鞘に納め、大きく息を吐いてからこっちを振り返った。
柔らかい笑顔。
「ご無事ですか」








「オルガヌ!ご飯冷めるよ!何してんの!?」
「勉強!!」
「…お父さん!オルガヌが勉強してるって!」
母さんの呼び声。
そう答えた俺に母さんはリビングの親父に大声で報告していた。
親父だって俺の声が聞こえてたろ…多分。

帰国した俺は、荷物を片付けるよりも先に机に向かった。
凄かった。
スウィーパーになりたい
ヒムロに近づきたい!







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