「…んん!?和乃!」
「はい」
ヒムロに連れてこられたのは…隊長室。
そこには副隊長と一人の小柄な男が居た。
「氷室隊長!お疲れ様でした!」
「マッグ殿もいつもご苦労様です」
マッグと呼ばれた男は勢いよく立ち上がると、ビシッと姿勢を正してヒムロに向けて敬礼した。
ここに連れてこられる間もそうだったけど、凄い人なんだ……
さっき副隊長が2年前のヒムロの事を「2年目の素人」って言ってたから、スウィーパー暦は4年くらいのはずだけど…
…つか、この人何歳なんだ?
顔つきは外国人っぽいし…未成年にも見えるけど、2年前に車運転してたから最低でもハタチだよな。
「やっぱ戻ってきよったな あんた」
「…!」
「入隊できなくてもいいから試験を受けたいとの事です」
部屋に入った時の反応から、追い返されるんじゃないかと思ったんだが…
試された?
「へえ。んじゃあ明日朝イチでな。
部屋借りて勉強しとき」
「私が案内します」
立ち上がっていた男がこっちに来た。
近くに来ると更に小さく見える。
「お願いします」
「はい」



男の後ろを付いて歩いていると さっき来た受け付けだった。
男は受け付けの女に話して何かの紙を受け取っている。
それを俺に渡すと、傍のテーブルに座らせた。
「こんな時期に入隊なんて、変わってるなお前」
「…春に黙って免許とって
親に言ったら親父にボコボコにされて入院とリハビリを」
「ひえー
ウチなんて家族揃って超笑顔で送り出してくれたぜ
…あ、お前オルガヌっつうのな ローリヤ人か」
俺が記入している受験と宿泊の手続きの書類を見て言う。
「俺はリド・マッグね。情報収集班Dチームのリーダーだ。
まだ入隊できっかわかんねーけど わかんねェ事があったら聞きな
部屋はC棟2階の13番。夜ならいるよ」
「…じゃあ、ひとつ聞きたい事があるんすけど」
ずっと気になってた事。
俺がそう言うと、リドは興味津々で俺の顔を見る。
「ヒムロ隊長って何歳すか」
「へ、何 お前そっち系?」
「違います!」
何言い出すんだこの人!
「…まあ、分かんないよねあの人
俺は就任の挨拶で声聞くまで性別も間違えてたし」
「だから…」
「25歳だって。見えねーよなー!
俺と1つしか違わねーもん!」
「えっ…」
25!?俺より年上なのか!
年下だとばかり思ってた……
「まあ倭国人って大陸人からしたらみんな若く見えるらしいしな
ちっこいし華奢だし顔の作りもシンプルだし
あ、背は俺のほうが小さいけど」
「外国人なんすか?」
倭国は知ってる。独特の文化がウケて高校の頃に一度クラスでブームが来てた。
各国のスウィーパーの隊長は代々その国の人間が務めているはずだけど…
「リゼン人とのハーフだよ。前隊長の息子さん」
なるほど
「あ、けど隊長あれで実力はかなりあるんだぜ?
スヴェルとリンクどころか契約もしてないのに体一つでスヴェルの集団とバトって無傷とかしょっちゅう。」
それは2年前にも見た。
あの時は本当に、ごく人間に近いヒト型のスヴェルなのかと思ったくらいだ。
「契約してない…って、じゃああの副隊長は?」
「隊長が昔病弱だったらしくてさ、体は治ったけど魂が契約の負荷に耐えられないんだと。
けど契約はしてなくてもパートナーはパートナーだよ」
「そうなんすか…」
そんな人も居るんだな。皆誰でも免許さえとりゃ契約できるもんだと思ってた。
「つかこんな質問じゃなくて試験に関係ある事聞けよ
ペン止まってるし」
「あ」











午前5時半、リゼン地区スウィーパー隊本部グラウンド。
静まり返った空間。
チャキッと刀の振れる音がした瞬間、隊長の目の前のわらの柱が四散した。
空気の動きを感じたのはほんの一瞬。
隊長はそのまま血振りの動作をし、刀を鞘に納める。
(勉強してる時に知ったけど 隊長の武器の名前は剣じゃなくて刀なんだな)
今隊長が斬った柱は、術によって数秒から数十秒で再構築され、再利用される。
それでも再構築の回数は限られていて…多くても20回くらいが限界だって聞いた。
「すげぇ…」
声を出すと 隊長はパッとこっちに振り向く。
振り向いた瞬間の表情を見て拙い事をした!と思ったんだが
「おはようございます」
と、隊長はニコッと笑った。
試験の合格が知らされてから一晩。
興奮して一睡もできずに夜が明け、ふらふらと寮を出てグラウンドを見たら隊長の姿が見えた。
そして何となく来てみた…って、邪魔、してるよな 俺。
「お、おはようございます…」
「早いですね。眠れませんでしたか?」
「あ、はい…興奮しちゃって」
頭を掻きながらそう答えると、隊長は柔らかい笑みを浮かべた。
「私も合格してすぐは同じでした」
隊長は俺に背を向け、ゆっくりと再構築されていた柱にそっと触れる。
「あなたは己の力量を測り損ねないで下さいね。」
力量…測れてないつもりじゃないけど…
「試験中、あなたには根拠のない自信が顕著に表れていたと報告書にありました。
新人にはあって当然のものですが、生き残りたいならその感覚は捨てるように。」
「…けど 多少は自信持ってねぇとやってけないっスよね」
上司だけど…何か気に入らねェ
言い返すと、隊長は悲しそうな笑顔を浮かべた。
「多少、で…済めばいいのですが」




「って 言われたんスよね……」
俺の教育係として就いたのは、こっちに初めて来た時に案内してくれたのと同じ
リド・マッグ。リドさんだ。
最初にも聞いたけど、情報収集班Dチームの班長。
情報収集班ってのは文字通り、犯罪者のスヴェルの情報収集を務めるスウィーパーの事だ。
スウィーパーや国民から寄せられた情報を元に駆除対象スヴェルの捜索、調査を行う。
駆除班とは違って滅多に駆除活動は行わないが
どんな事態にも対応できるように駆除班以上の訓練をしているらしい。
加えて、人柄がよく頭も相当よくないと務まらない とか。
今朝隊長に言われた事…と、隊長が最後に見せた表情が忘れられず気落ちしていると、
リドさんは周囲に気を使う事もなく大声でゲラゲラと笑っている。
「ったり前だっつーの!
俺は強い!凄いんだ!なんて思い込んでる奴に限って無茶してアッサリ…ってな。
この世界、本当に強い奴なんて一握りしかいねーんだ。
そんな一握りの中に普通の人間の俺らが入り込める訳がないんだから
俺らは自分に求められている事、できる事をやるだけでいいんだよ」
「そう…すよね」
視線を逸らすと、リドさんは呆れてテーブルに肘をつく。



「ま、怒られてへこんでるって事は自覚できたってこった。
そんで一旦頭ン中リセットできりゃあ、俺が責任持って伸ばしてやるよ。」
「…はい」
「あと、隊長が朝練してる間グラウンド立ち入り禁止だかんな
向こう集中してんだから斬られても知らねぇぞ」
「えッ マジっすか!」
「マジマジ」
俺危なかったんだ!




<<前へ ■ 次へ>>