梅雨も明けて夏に入ったある日。
射撃場。

「あ゙ー…疲れた」
「お疲れ様です」
「!」
隊から配給された機関銃を置き、台から少し離れたベンチに座ると頭上から声がした。
後ろの防弾ガラスの向こう側に立っていたのは 隊長…!?
「わっ、おっ、お疲れ様です!」
立ち上がって敬礼すると、隊長は微笑んで中に入ってくる。
隊長が得意とする戦法は刀、接近戦で、射撃場で見かけることはほとんど…というか俺は全くなかった。
たまたま通りかかって様子を見に来ただけなんだろうけど。
「銃の扱いには慣れましたか?」
「いやぁ…なかなか」
「合わないようなら武器を変えてもいいんですよ」
隊長が入ってきた事に気付いた他の隊員らも隊長に向けてはっきりとした声で挨拶、敬礼をする。
中には完全に無視してる人も居る…けど。
話す人によって話が違っててよく分からないんだけど
何でも前の隊長が殉職した原因が氷室隊長にあるとか。
リドさんは隊長の年齢や女みたいな容姿も関係あるだろうって言ってたな。
俺はそういうのはあんまり興味ないんだけど。
隊長、カッコイイし。
「や、俺この銃が好きなんで 名前も付けたんです!メアリーつって」
「女性ですか」
何か、馬鹿にしたみたいに笑われた。
本気なのに
「好きな人っス」
「それは」
隊長の表情がまた変わる。
メアリー…名前付けたってのは隊長意外には話してない。
だって、その好きな人ってのも俺と同じ班で指導を受けてる子だから。
班員のイツハさんのルームメイトで19歳の女の子だ。
何でスウィーパーに?と思うくらい可愛い お嬢様、って感じの子。
…そういえば、隊長って好きな人とか…いるのかな。
あまりイメージは湧かないけど隊長も男だ。
結婚してもおかしくない年だし、恋人くらいはいるのかも
「…「銃以外の戦闘はどうです?」
「…あはは」
「……」
一足先に問いかけられて聞けなかった。
声だけ笑うと、次は呆れられる。
隊長は声を出さずに苦笑して台の方に視線を移した。
「何か、いざ人相手ってなると怖くて。
相手が先輩で、訓練だからなのかもしんないスけど
怪我させちゃうかも、こっちが怪我するかもって思うと…
ローリヤではダチとか他校の奴相手に殴り合いの喧嘩とかしょっちゅうしてたんスけどね」
へへ、と笑って言う。
「相手を仲間だと思うから力が入らないのですよ
精神面で既に負けているようでは勝てる勝負も勝てません。
実戦では相手は敵意、殺意を持って向かってくるのですから
そのような相手に怪我をさせてはいけないなどと考えているようではこちらが命を落とすだけです。
訓練でも同じです 訓練で勝てなかった数だけ実戦で命を落としているという事ですからね」
「………」
笑ってしまったのが恥ずかしい。
先輩にも何度も同じように怒られたけど、仕方ないじゃん!って
はなっから話を聞こうとしてなかった自分に気付いて余計に。
「それに、怪我はいつか治ります。
怪我をさせてしまった時は『ごめんなさい』でいいんですよ
仲間なんですからね」
矛盾してんじゃん、と一瞬思ったが
…仲間だから、って手を抜いちゃダメだって意味 だよな。
甘えないで真剣に接しろっていう。
「よろしければ今度一戦お相手しましょうか」
「ふえっ!」
黙って反省していると、隊長が俺の顔を覗き込んでそう提案してきた。
予想外の展開に情けない声を出してしまう。
「仕事があるので夜か早朝しか無理ですが」
「あ、ああああの…!」

「和乃!何しとんねん!」

「おっと」
是非お願いします!…って言いたかったんだけど、一歩先に隊長を呼ぶ声が響いた。
振り返ると、防弾ガラスの向こう、出入り口近くに貴一さんの姿が。
……この防弾ガラスは防音も兼ねてるはずなんだけど…よく聞こえるな



「見つかってしまいました」
隊長は、いたずらっ子が親に見つかった時のような無邪気な笑顔を見せる。
「では、検討しておいてください」
「あ、は、はい!」
お願いしますって言えよ俺!と言った後で思うんだけど
気づいた時にはもう隊長はその場を離れてしまっていた。
…隊長もあんな顔するんだ。




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