それから1ヶ月、俺は毎日欠かさず訓練に取り組んだ。(あとこっそり倭国語の勉強も)
リドさんや班の人たちも仕事の合間に俺に付き合ってくれる。
最初はビビッてちょっと引き金引くだけでひっくり返ってた機関銃の扱いにもだいぶ慣れた。
接近戦も…結局あれから隊長と話す機会がなくて手合わせ願うことはできなかったけど
前よりはずっとよくなった。
…つっても、まだ外で仕事をさせて貰う事はできないけど。
「なあオルガヌ、メアリー」
会議室でDチームの書類の整理を手伝っているとき、リドさんが俺とメアリーの名前を呼んだ。
「一回仕事ついてきてみるか?
ダリアティアとその地域の山の調査だけど」
「はい!」
「え…」
「まだ怖いかな?ボク?」
元気に返事をしたメアリーとは逆に、思ってもなかった話に一瞬ポカンとしてしまうと
机をはさんだ向かい側に座っていたイツハさんが子供をあやすような言い方で俺に言う。
いつも子ども扱いされるんだよな…実際年下だけどさ。1つだけ。
「いえ、行きます!行かせてください!」


「ということで、本日の調査にオルガヌ・ハイマン、メアリー・ランスの2名を同行させようと思います」
「はい 分かりました。
いつも通り班員全員の身の安全を第一に考えて任務にあたってください」
「了解しました」
「ありがとうございます!」
リドさんとメアリーと3人で隊長に報告。
リドさんの言うとおりすぐに許可が出て、はやる気持ちを抑えて敬礼する。
「それでは、失礼します」
額に当てていた手を下ろし、頭を下げて退室する。
はずだったんだけど…
「ちょっと」
と、隊長が声をかけてきた。
「はい」
二人と揃って振り返り、背筋を伸ばして立つと 手元の資料を見ていた隊長がこっちを向いて微笑んだ。
「明日はハイマン君のお誕生日なんですね
帰ったらお祝いしましょう
以前訓練のお相手をしようとお約束したこともそのままになってしまっていますし、それも」
…え
「マジっすか!約束憶えててくれ「コラッ!隊長に何て口の利き方して…!」
嬉しくなって思わず興奮すると、横に居たメアリーがぎょっとし、リドさんが俺の頭を殴った。
ソファにだらしなく座って見ていた副隊長が笑う。



「(ダリアティア…か 田舎だな)」
「言っとくけどな、オルガヌ
隊長はお前だけに特別に言ったんじゃないからな」
「分かってますよー」
リゼン地区スウィーパー隊では、任務に向かう隊員を見送ることはしない。
“必ず無事帰還する”ことが前提だからだ。
帰ってきてからの約束をするのも同じ理由。
俺は隊長に憧れてる!とあちこちで公言してるから、隊長もそれを分かってて言ったんだ。
口約束だし、帰った時にはなかった事になってるかもしれないけど 何かあるかもしれないし!
たった一泊の調査なんだから絶対帰ってこれるしさ。
汽車の中で窓の外を眺めながらニヤついていると、向かいの席に座っていたリドさんに注意され
後ろの席のメアリーが座席を乗り越えて俺の頭を叩いた。


「じゃあ、俺とイツハ、ウォーキー、オルガヌは宿に荷物を運んだ後準備を整えて山に、
メアリーとゼンはレジーナ、ジェスとキティはベライスの情報屋から買ったあと
民間人からの情報収集にあたってくれ
次の集合は午後5時 予定の宿のロビーで」
「はい」
「じゃ、開始」
レジーナはこの町の酒場、ベライスは武器屋だ。
“そういう”ヒトが集まる場所には情報も集まりやすく
それを売って商売をしている奴もいる。
その中でも特に信用のおける人物を見極めて情報を買う事も情報収集班の仕事だ。
リドさんは数回目の確認をし、軽く手を上げて指示を出した。
メアリーとは別行動か…ちぇ

「何か地味っすね」
「うちの班なんてみんなこんなもんだよ
スヴェル相手に銃とかバンバンぶっ放すのは駆除班の仕事。」
山に入った時から班の人たちが機械を使って計測したり記録したりしているのを
邪魔にならない位置から見てるだけの俺。
新人が大事な仕事に触らせて貰えないことは分かってるけど、とにかく暇。
「だからって気ィ抜いていいわけじゃねーからな
相手からすりゃスウィーパーは俺らも駆除班も同じだ
いつ襲い掛かられたっておかしくない」
「分かってます」
機関銃の入ったトランクを足元に置き、ポケットに手をつっこむ。
「待ちなさい こんな所でタバコなんか吸う気?」
「え?」
イツハさんに突然注意され、ポカンとする。
「やめとけ 敵さんの鼻が利いたらどうする」
「あ…そか」
くわえかけたタバコを箱に戻し、ポケットに突っ込む。
だからイツハさんもいつもの香水してなかったんだ。
「タバコはスウィーパーにとって百害あって一利なし
どうしても吸いたいってなら止めねぇけど、駆除班目指してるならやめたほうがいい」
「はーい…」
いいじゃんかね、別に。
一日に何本も吸うわけじゃないし。ちょっとだけだし。
「絶対コイツちょっとくらいいいじゃんって思ってるぜ」
「うっ」
ウォーキーさんが計測器の調整をしながら笑って言う。
するとリドさんは眉間にしわを寄せて俺を見た。


「あ、そうだ あんた危なそうだからコレ渡しとくわ」
そう言ってイツハさんが道具箱に丁重にしまわれていた栓のされた試験管を俺に渡してくる。
何か、字が書いてある紙が包むように貼られてんだけど…封印?
「何すかコレ」
「おい、イツハ」
リドさんが心配そうな顔でこっちを見る。
「銀の波動を凝縮した液体よ
前は水銀を使ってたけど人間の体にも悪いからね」
「銀…って、スウィーパーが使うのは違反じゃ…」
スヴェルの体に悪いっていうのは子供でも知ってる常識だ。
スウィーパーでは原則的に禁止されているが、禁止されていない民間人でも所持している人は少ない。
宗教等でスヴェルとの接触を絶っている所だったり
スヴェルのみを標的にした犯罪にはよく利用されているらしいけど。
「確かに違反だけど、こうして持ってる人は結構いるのよ お守りみたいなもの。
その札を剥がしたり落として割ったりふた開けたりしちゃダメだからね
私たちの中にスヴェルはいないけど、ここに住んでる獣型スヴェルもたくさんいるんだから」
「…はい 怖いなぁ」
「ホントに怖いよ」
リドさんとウォーキーさん二人の物凄く心配そうな顔でこっちまで不安に…。
機関銃のトランクを開け、余っていたスペースにはめ込む。
もちろん試験管用じゃないからピッタリではないが 手で持ち歩くよりはまし…だよな。
「よし 次行くぞ」




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